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人を大事にする「働き方改革」の進め方(1)

働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ

JDIOダイバーシティシニアコンサルタント 油井文江

 

 企業の人材難による業績の伸び悩みや、事業縮小・撤退に及ぶケースが少なくありません。「働き方改革」は、人材の枠を拡げ、かつ一人ひとりの生産性を高めて労働力不足に立ち向かおうとする改革です。しかし現実には、進め方に戸惑う企業が多かったり、「改革をやったら経営が成り立たない」と考えたりする経営者が少なくありません。

 

 そこで、6回に分けて改革の内容と必要性、またその具体的ノウハウを考えていきます。

 各回の内容は次の通りです。

  • 1回目:なぜ働き方改革なのか―①
  • 2回目:なぜ働き方改革なのか―②
  • 3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント
  • 4回目:労働生産性の高め方
  • 5回目:働き方改革の進め方
  • 6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など

1回目:なぜ働き方改革なのか― ①

 最初に、働き方改革の概要とそのゴール、また背景を整理しておきましょう。

(1)  働き方改革の概要

 働き方改革の主な項目は次に挙げる内容です。眼目は長時間労働の規制にあり、努力義務から罰則付きへの強化事項が含まれます。関係する労働基準法も1947年に制定されて以来初の大改革となりました。企業には、単なる労務管理ではない、生産性やイノベーションの向上に向かう経営戦略としての取り組みが求められているといえます。

 

 

図1 働き方改革関連法(2018年6月成立)の主な内容

 (2)  直前でも不十分な認知(*調査実施2020年2月~3月)

「働き方改革関連法」の認知や準備は未だ不十分な状況にあります。

 以下は、日本・東京商工会議所「人手不足の状況、働き方改革関連法への対応に関する調査」(発表‘20年5月)からの数値です。

 

  • 時間外労働の上限規制 *罰則あり(大企業 2019年4月、中小企業 2020年4月~)
    • 「名称・内容の認知が十分でない」16.2%
    • 「対応の目途がついていない」18.5%
  • 年次有給休暇の取得義務化  *罰則あり(大企業・中小企業ともに2019年4月~)
    • 「名称・内容の認知が十分でない」7.1% *すでに施行後
    • 「対応の目途がついていない」10.0%
  • 同一労働同一賃金(大企業 2020年4月、中小企業 2021年4月~)
    • 「名称・内容ともに知っている」:昨年調査比5.3ポイント増加、73.4%
    • 「対象になりそうな非正規社員がいる」23.4 % 、うち待遇差を「客観的・合理的に説明ができる」33.1%、「対応の目途がついている」46.7%
    • 課題:「同一労働同一賃金の内容が分かりづらい」50.1%、「増加した人件費を価格転嫁できない」49.2%、「処遇改善に当てる原資がない」21.1%

 

(3)  働き方改革のゴール

 改革への取り組みが早い企業では、戦略的課題としてゴールを設定し、まず従業員のための働き方の整備から入り、それが人材の確保・定着と生産性の向上をもたらすという、双方に利のある経営を実現しています。一方で、改革テーマの「長時間労働の是正」や「柔軟な働き方」「非正規雇用の処遇改善」などに消極的な企業では、人材の採用難から業務の非効率や事業の縮小など、厳しい事態に追い込まれる事例が目立ちます。

 

 働き方改革とは、生き生きと働く人材による職場づくりと生産性の向上を同時に行うことです。それは、働き手にとっては「働きやすい、働きがいのある働き方」であり、経営にとっては「利益が上がる働かせ方」。両者はWin-Winでなければ進まず、力づくでも進みません。経営サイドと働き手の双方がゴールを理解し、気持ちを合わせることが大事です。

改革のゴールを整理すると次のようになります。 

 足元の改革ゴール=働き方改革の解決課題

改革の最重要課題である長時間労働の削減では、すでに多くの課題が明らかです。図2の労働時間や働き方に関する調査で「長時間働く理由」を見ると「業務の繁閑が激しいから、突発的な業務が生じやすいから」「人手不足だから」「業務配分にムラがあるから」「仕事の進め方にムダがあるから」などです。これらを一つ一つ解決するのが働き方改革の取り組みなのです。

 

図2 長時間働く理由

 出所:労働政策研究・研修機構「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」および「労働時間や働き方のニーズに関する調査」2016年

 

(4)  なぜ働き方改革なのか:労働力問題の解決=人材の質的・量的確保

 働き方改革の必要性は、労働力と生産性の両面から生じています。労働力面では、絶対量の不足を女性、高齢者、外国人などの人材枠の拡大で解決する他ないこと、生産性面では、労働力の不足を補う生産性と、競争力を生み出す生産性が必要であることを理解しておきましょう。

 

労働力不足に対して取るべき方向

1.人材枠の拡大=人材の量的確保

2.業務量の調整=事業の選択・削除、受注しない、外注するなど

3.多様な人材の活躍、1人当たり生産性を高める=人材の質的確保

 

①人不足は急速かつ長期に続く

  人口問題は経営の根幹を揺るがす問題です。2020年1月発表の商工リサーチ調査では、人手不足倒産が426社と史上最高水準でした。近年の推移をみると、道路貨物運送や介護、木造建築工事業種などを中心に倒産が目立ち、規模の小さい企業ほど深刻な状況です。また、需要の増加に対応できず、新規事業が停滞したり事業の縮小を迫られたりと、倒産につながりかねない事情を抱えています。(図3参照)

 

図3 人材不足により生じている問題 

出所:労働政策研究・研修機構「人材(人手)不足の現状等に関する調査」および「働き方のあり方等に関する調査」2016年

  

  次の図4は我が国人口の長期的推移を示したもので、人口が100年間で1/3になる急減ぶりは世界に類を見ません。国立社会保障・人口問題研究所等の関係機関の予測では、並行して高齢化率が現状の約2倍、生産年齢人口(15~64歳)が1/2になる。生産年齢人口は1995年の約8,700万人をピークに減少し、2060年には約4,800万人と2015年の約6割になる。減少は将来にわたって継続すると推計され、企業にとって人手不足はもはや常態の事態であり、人材リスクが増すことを示すものです。

 

図4 我が国における人口の長期的推移 

出所:「国土の長期展望」中間とりまとめ 概要(平成23年国土審議会政策部会)

   

② 人材の量的確保

 潜在する労働力で今後期待できるのは、主として女性、外国人、シニアです。いずれもこれまでの働き方では制約があり働きづらかった属性。企業は人材の量的確保をするために、まずこうした人材への枠を拡げる雇用策を考えなければなりません。そのためには、働きづらさを抱えた多様な層に正面から向き合い、その働き方・働かせ方の適否を見直さなければならない、これが働き方改革の入口であり中身なのです。

 

a.「一億総活躍プラン」の土台=「働き方改革」 

b.労働力不足の解決策は、第一に国内外の多様な働き手が労働市場に出てくること

 国の施策ではこれを「ニッポン一億総活躍プラン」として、2018年の働き方改革関連法に先立つ2016年に閣議決定しました。一億総活躍プランは「少子高齢化に真正面から挑み、希望を生み出す強い経済」を目指すものであり、「あらゆる場で誰もが活躍できる、全員参加型の社会」(政府広報)プランです。

 

c. 「働き方改革」=多様な人に「働いてもらう・働きたくなる」改革

「一億総活躍」「全員参加型」とは、女性や高齢者から外国人を含むあらゆる属性の労働市場化と言い換えることができます。しかし、これまでの日本企業の働き方は、長時間労働を是とする滅私奉公型の働き方」であり、この働き方が人不足の解決の大きな壁。働き方改革とは、人口減少と高齢化から必然化した「あらゆる人材向けの環境づくり」であり、多様な働き手に「働いてもらう・働きたくなる改革」ということができます。