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人を大事にする「働き方改革」の進め方(3)

働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ

JDIOダイバーシティシニアコンサルタント 油井文江

 

 企業の人材難による業績の伸び悩みや、事業縮小・撤退に及ぶケースが少なくありません。「働き方改革」は、人材の枠を拡げ、かつ一人ひとりの生産性を高めて労働力不足に立ち向かおうとする改革です。しかし現実には、進め方に戸惑う企業が多かったり、「改革をやったら経営が成り立たない」と考えたりする経営者が少なくありません。

 

 そこで、6回に分けて改革の内容と必要性、またその具体的ノウハウを考えていきます。

 各回の内容は次の通りです。

  • 1回目:なぜ働き方改革なのか―①
  • 2回目:なぜ働き方改革なのか―②
  • 3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント
  • 4回目:労働生産性の高め方
  • 5回目:働き方改革の進め方
  • 6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など

3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント

(1)  多様な人材が活きるダイバーシティ・マネジメント 

出所:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2019年版」 

 

① 働き方改革=多様性に取組むこと

 従来の働き方は、同一の財・サービスを主に男性が長時間働いて生産することでした。しかし労働力と生産性の面でその働き方が課題となっています。長時間労働は、女性の就業をはばみ、介護等の私的な事情を抱える男性を遠ざける。外国人からは敬遠され、シニアの就業を困難にする。正規・非正規等の働き方も、雇用格差が労働市場への参加を妨げ、若者の雇用や待遇を阻害し、ひいては少子化の原因となって経済に跳ね返りもする。働き方改革とは、この多様な人材の働く環境を変えることであり、企業では図9のような取り組みがなされています。

 

 2回目で、生産年齢人口が少なくなる人口オーナス期の働き方は、多様な人材、短時間、頭脳労働などがキーワードだと述べました。なぜなら価値創造の担い手が多様な属性に広がり、それぞれの特性がシナジーとして付加価値生産を高めるからです。

この人的資源の広がりに伴う課題を解決する戦略的手法として「ダイバーシティ・マネジメント」があります。ダイバーシティとは「多様性の受容」を意味。様々な人的資源が持つ能力を発揮し合うことが生産性と競争力を高めるとする考え方であり、その実現に必要な人と組織とマネジメントに及ぶ「改革手法の体系」です。

 

 ダイバーシティ・マネジメントの基本は「人(ひと)大事」です。多様な一人ひとりの異なりを大事にすることで利益を高めようとする。本シリーズ原稿のテーマである「一億総活躍」も「働き方改革」もダイバーシティに向けた改革ということができます。 

 

図9 多様な人材の活躍のための企業の取り組み

 出所:「令和元年度 年次経済財政報告」 

 

①多様性が企業にもたらす価値

  • 多様なニーズを市場にできる:創造的なイノベーションやアイデアの源泉となる
  • 優秀な人材マーケットが拡がる: 全ての属性、世界中から優秀な人材を獲得できる
  • 人材の能力開発が進む:セルフエスティーム(自己肯定)やモチベーションが向上
  • 事業や業務のイノベーションが進む:業務プロセスの見直しや業務改善の契機に
  • 組織力が高まる:差別や対立のロス低減、効率的な職場づくり、組織の一体化
  • リスク対策になる:意思決定の最適化、経営リスクの低減

②   ダイバーシティを実現する組織づくり

 ダイバーシティを進める組織づくりでは、次に挙げるポイントを押さえておきます。

 

 a.  意識改革

  • 均一や均質の力による成功体験を捨てる
  • 男女の性別役割分担意識や年齢差別のエイジズムなどの意識バイアスを改める
  • ピラミッド型の組織意識を変える
  • ゼロから仕事を見直す(BPR・Business Process Re-engineering)

 b.  組織・制度の改革

  • 指示命令型組織から創発型組織に変える
  • 組織自体を不断に変化対応する「学習する組織」へと作り変える

 c.  人材育成投資

  • 多様な人材の可能性に期待(評価)する
  • 自律型人材(主体的、創造的人材)を育成する
  • 多様な能力開発のために一人ひとりへの教育投資を強化する

 

(2)  働き方改革に有効な取り組み手法

 働き方改革に必要な取り組み事項のうち、長時間労働削減に関わるものとして、テーマ別の手法や、企業事例に見る残業削減の取り組み内容、並行して進めたい残業削減の支援環境づくり、また、従業員の参画を高める方法を紹介します。 日本人の長時間労働、低生産性、低いモチベーションなどの諸データは、これまでの働き方である「労働投入型」の限界を浮かび上がらせます。労働投入型は長時間労働の誘因となり、従業員の思考停止型の就業や低コミットメント、制約人材(ワケあって働きづらい)の再生産、生産性低下、さらには組織の荒廃を生じさせる。こうした限界やマイナスを教訓として、働き方改革を考える必要があります。

 

図10 長時間労働削減の5つのテーマと手法

 

図11 企業事例に見る残業削減の取り組み

 

図12 並行して進めたい残業削減の支援環境づくり

 

図13 従業員の参画を高める方法

図10,11,12,13  出所:「中小企業のためのワーク・ライフ・バランス」油井文江著 2011年