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人を大事にする「働き方改革」の進め方(6)

働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ

JDIOダイバーシティシニアコンサルタント 油井文江

 

 企業の人材難による業績の伸び悩みや、事業縮小・撤退に及ぶケースが少なくありません。「働き方改革」は、人材の枠を拡げ、かつ一人ひとりの生産性を高めて労働力不足に立ち向かおうとする改革です。しかし現実には、進め方に戸惑う企業が多かったり、「改革をやったら経営が成り立たない」と考えたりする経営者が少なくありません。

 

 そこで、6回に分けて改革の内容と必要性、またその具体的ノウハウを考えていきます。

 各回の内容は次の通りです。

  • 1回目:なぜ働き方改革なのか―①
  • 2回目:なぜ働き方改革なのか―②
  • 3回目:働き方改革=「人(ひと)大事」のマネジメント
  • 4回目:労働生産性の高め方
  • 5回目:働き方改革の進め方
  • 6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など

6回目:「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策、支援施策など

(1)「人材確保」「人大事」を実現する人事・労務施策

①心身の健康増進策の充実

a.健康経営の必要性

 働き方改革を考えるうえで、従業員の健康管理も重要です。心身の不調により十分なパフォーマンスが発揮できないようでは、労働生産性向上は実現しません。そこで生まれたのが「健康経営」の概念です。経済産業省では、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義づけています。政府としても、社会保険制度を維持する観点から、「健康経営優良法人」の認定を進めています。

 

 健康経営に向けた具体的施策として、先に述べた長時間労働抑制に加え、ストレスチェックの実施(従業員数50人未満事業場では努力義務)、定期健診の受診勧奨、ヘルスリテラシー向上に向けた教育機会の設定、食生活改善や運動機会増進、受動喫煙対策に関する取り組みなどがあります。企業は、これらをコストとしてではなく、将来への投資として捉えることが重要です。

 

b.ハラスメント対策

 a.に関連し、特にメンタルヘルス不調の原因になりうるのがハラスメントです。職場におけるハラスメントは、被害者に精神的な苦痛を与えます。被害者は心身の健康を害し、離職、そして最悪の場合は自殺に至るケースも。またそれは、周囲の同僚にも悪影響を及ぼします。

 ハラスメントが起こりやすいのは、コミュニケーションが取れていなかったり、成果を急ぐあまり時間に追われ過重労働が発生したりしている職場です。このような余裕のない職場では、弱い立場の従業員に感情をぶつけてしまいやすいのです。

 これを防ぐためには、トップが「ハラスメントは許さない」というメッセージを強く発信するとともに、何がハラスメントに該当するか明確にすることや、相談窓口を設置し、できるだけ初期の段階で気軽に相談できるしくみを作ることが有効です。

 また、ハラスメントの相談を受けたときは、中立・公正な立場での事実確認と、是正の要否や処分内容の判断、さらに再発防止策を検討することになります。

 

②キャリア支援の充実

a.キャリアの個別管理

 これまでの基幹社員の長期雇用を前提とした慣行では、同質性・年功を基準とした人事管理が効率的であったため、中途採用、外国人、家庭の事情から残業が困難な者等、個々人の状況に応じた適切なキャリア支援ができていませんでした。結果として「異質な」労働者のモチベーションを下げることになっていたのです。しかし、人材不足やイノベーション進展への対応が求められる昨今、そのような慣行を維持していては、企業経営は立ち行かないのが現実です。

 より多様な人が働くことになれば、望むキャリアも意欲の源も多様となります。それらを理解し、マネジメントできるような働きかけ、すなわちキャリアの個別管理と支援が企業には求められます。

 

b.副業の促進

「人生100年時代」を迎える今、働く期間も長くなり、一社だけで職業人生を全うしようという考え方は通用しなくなっています。そこで、副業・兼業の促進が「働き方改革実行計画」のなかには盛り込まれました。

 企業が副業・兼業を認めるメリットとしては、「従業員が異なる企業・業界の文化に触れることで、新たなものの見方を提供してもらえる」「自律的なキャリア形成ができる企業として、従業員のエンゲージメントが増す」ことなどがあります。従業員の健康管理や職務専念義務・秘密保持義務などに気を配りつつ、キャリアの選択肢を広げていくことが企業には求められます。

 

③人材確保のための採用広報の改善

 優秀な人材確保を目指すなら、働き方改革に向けた取り組みや成果は、求職者に説明できるようにしておきましょう。それらを対外的に発信できれば、企業のイメージアップや人材確保につなげることができます。特に多様な働き方の選択肢があるなら、その制度や実績、仕事内容や働き方のイメージを伝えられるようにします。求人票や企業ウェブサイトにも掲載すると効果的です。

 

 また、取り組みの成果として、「くるみん(子育てサポート企業への認定)」や「えるぼし(「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」 に基づく認定)、「ユースエール(若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業への認定)」といった厚生労働省の認定や、各都道府県で行われている類似の認定・表彰を受けることができれば、それも併せてアピールします。各認証制度等の実施者もその認定企業紹介に力を入れており、その評価が高ければメディア取材の機会もありえます。

④ 就業継続のための労務管理のポイント

 働き方改革の大前提は、労務管理に関する最低限のルールを遵守することです。法令違反のある職場では従業員のモチベーションも上がらず、また従業員自身が自社のルールに無頓着となり、顧客満足が実現できません。また、未払賃金の支払いや、ハラスメントや労働災害の慰謝料といった金銭的負担を伴う状況が発生すれば、経営にも影響を及ぼします。それでなくとも倫理的な問題が発生すれば、メディアやSNS等で繰り返し拡散され、企業の社会的信用は失墜しかねません。採用や定着も難しくなります。

 

 安心して働ける職場づくりに向け、以下の基本事項を見直しておきましょう。これらは、従業員のためだけでなく企業を守ることにもつながります。 

  • 労働条件通知書は交付してありますか
  • 就業規則は作成・届出・周知していますか
    (常時10人以上の労働者を使用する事業場の場合)
  • 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(法定三帳簿)は整備されていますか
  • 条件に該当する従業員には、雇用保険、社会保険に加入させていますか
    (労災保険は労働者が1人でも雇用していれば適用される)
  • 法定時間外労働・法定休日労働をさせる場合、36協定は締結していますか

 

(2)多様な人材活躍推進・働きやすい職場づくりに関する法律

 ここでは、多様な人材の活躍推進や、働きやすい職場づくりに関する関連法について、昨今法改正や制度変更があったもの(予定を含む)を中心に、概略を紹介します。

 

①男女雇用機会均等法

 募集・採用、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新の雇用管理の各ステージにおける性別を理由とする差別の禁止等を定めている。併せて、職場におけるセクシュアルハラスメントや妊娠・出産等に関するハラスメントなどの対策についても規定している。

 

②女性活躍推進法

 女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため、国、地方公共団体、民間事業主(一般事業主)の各主体の女性の活躍推進に関する責務等を定めた法律。

 2022年4月より、一般事業主行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象が、常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大されることが決定している。

 

③育児・介護休業法

 育児及び家族の介護と家庭生活との両立が図られるよう支援することにより離職を防ぎ、さらに就業環境を整備していくための法律。育児休業(男女とも原則として子どもが1歳に達するまで。最大2歳まで延長可)、介護休業(対象家族1人につき最大3回、通算93日まで)、所定外労働の制限、短時間勤務制度等について定めている。

 2021年1月より、現在半⽇単位での取得が認められている子の看護休暇及び介護休暇について、時間単位での取得を認めることが、企業には求められている。

 

④高年齢者雇用安定法

 急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的とした法律。企業には希望者全員の65歳までの雇用を義務づけている。

 さらに、70歳までの雇用・就業機会の確保を企業の努力義務とする改正が検討されている(2020年2月現在)。

 

⑤労働施策総合推進法

 本法により、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となる。施行は、大企業が2020年6月1日、中小企業が2022年4月1日となっている。

 

 

(3)推進施策・ツールの紹介

 厚生労働省では、働き方改革に向けて多くの支援ツールを提供しています。ここではその代表的なものを紹介します。 

 

連載「働き方改革~人材確保、生産性・収益アップの実践へ」

1回~6回 終わり